The Side of 早稲田大学
試合開始直後から、最後尾に控える3人は「ノーペナ!」と叫び続けた。
ペナルティがトライに直結することを、知っていた。
思うように前へ進み、楽しいようにボールが繋がった前半。
一転して後半はブレイクダウンでプレッシャーを受けペナルティを取られ、ラインアウトモールからトライを許した。
前半は30点差。
それが試合終了時には、7点差まで縮まっていた。
収穫はある。
この日司令塔を務めた伊藤大祐選手は、1トライ5ゴールの活躍。
大田尾監督も「ボールを持つ所と仕掛ける所、ランニングプレーもあったしキックの飛距離も出た。合格点」と称えた。
体格だけではなく、プレーも骨太になった。
自陣22m付近で相手のパスが乱れると、すかさずキック。ハーフウェイ付近でもう一蹴り加え縦回転の勢いをつけると、敵陣22m付近でボールを拾い上げスライディングトライを決めた
13番の岡﨑颯馬選手は、献身的なプレーでチームを支えた。
トライを決めらるとすぐに仲間を呼び寄せ、一つの塊を作る。そしてその円陣の中では、手を叩きながら声を張り上げた。
岡崎選手が蹴った50:22キックから、前半最後のラインアウトモールトライが生まれた
この日、アカクロの2番を背負ったのは原朋輝選手。
トイメンの2番は、桐蔭学園高校時代の同級生、原田衛選手だった。
フッカーとして初めての対抗戦、そしてなにより、伝統ある早慶戦。
緊張しているかと思いきや、ファーストスクラム前の原選手は笑顔だった。そして4番・村田陣悟選手に肩をひとつ叩かれ、セットに入る。
最初のラインアウトスローイングではノットストレートを取られ、3番・亀山昇太郎選手には笑いながら原選手の頭に手を置かれた
原選手最大の見せ場は、前半28分。ラインアウトからフェーズを重ねると、スクラムハーフが放ったボールを長田キャプテンの内側で切り裂くように受け止めた。
そのまま元フランカーらしい運動量でディフェンスラインを振り切れば、トライ。
努力を知っている仲間からの祝福に、原選手は顔を綻ばせる。
グラウンドに立つ14人全員が、原選手を称えにインゴールまで走った
最終学年の気合いも至るところで見受けられた。
バイスキャプテンであり、スクラムの主・小林賢太選手は、何度も組み直しになるスクラムを改善しようと、ハーフタイムに入った直後にレフリーの元へ駆け寄った。そしてハーフタイム明けにもまた、レフリーと話を重ねる。
4年生になって、多角的なコミュニケーション量が増えた。
9番・宮尾選手がノックオンし落ち込むと、頭を2度優しく叩き、最後に腰へ気合いを入れた
「4年生として、そしてアカクロを着るものとして、この試合は負けられないという思いで挑んだ」と語ったのは15番の河瀬諒介選手。
ミスもした、まだまだだった。でもアカクロを着られない人たちの想いを忘れることなく80分間プレー出来たことは良かった、と付け加えた。
長田キャプテンと小林バイスキャプテンが退いた後は、ゲームキャプテンとして円陣で声を出し、レフリーとのコミュニケーションも担った。
2度目の正直で繋がったオフロードは2本目のトライに
チームを率いる長田智希キャプテンは、前半で退いた。
「この試合も大事だが、まだシーズンは続く。しっかり見据えた交代」と大田尾監督は話す。
キャプテンが不在になってから、後手に回ってしまった。でもこのことすら「経験」だという。
「後半はキャプテンなしでバラバラになった。誰がどう意思統一するのか、やってみないと分からない。試して良かった」と、監督は前向きに捉える。
やはり大きいキャプテンの存在。
対抗戦最終節・明治大学戦に向け、課題は明確になった。
昨日から緊張していたという佐藤健次選手。自身の早慶戦のテーマは「強く賢く」