3月30日
3月25日から熊谷ラグビー場で行われた、第23回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会。
決勝に進出した東福岡高校ラグビー部は、決勝前日、宿舎の目の前にある埼玉ワイルドナイツのグラウンドで午前10時過ぎから体を動かしていた。
「知ってる?決勝戦中止になるかもしれないって。」
そう藤田監督に声を掛けられたのは、10時半ごろ。
1回戦の対戦校に新型コロナウイルスの陽性者が出たこと。大会実行委員会から辞退勧告がなされていること。だけどどうにか決勝戦を行える方法がないか探していること。
僅か数十秒の間に入ってきた情報は、あまりにも予想していないものだった。
「いま、戦ってんの。」
PCR検査用の検体を採取する東福岡高校の選手たち
決勝戦実施への僅かな可能性を懸けて、これからPCR検査をするという。
抗原検査とPCR検査が陰性だったら、決勝戦をやらせてもらえないか。交渉材料の一つにしようとしていた。
抗原検査については既に、埼玉ワイルドナイツ提供のキットで実施済み。
PCR検査はその日がたまたま埼玉ワイルドナイツのPCR検査日だったこともあり、これまた埼玉ワイルドナイツ側が検査の手配をしてくれていた。
決勝戦の実施に向け、出来る人が出来ることで、打てる限りの手を打って、協力をした。
帯同している選手・スタッフ全員が順々に検体を採取し始めたのは、午前11時前。
選手もスタッフもみな、マスクをしながらその日の練習を行っていた。
この日だけではなく、大会中は常に「マスクして」「鼻までマスク覆って」と自分たちで声を掛け合い、出来うる限りの対策を講じていた東福岡高校の選手たち
藤田監督は何度も電話を掛け、何度もコーチ陣らと話をし、何度もグラウンド脇を行ったり来たりした。
だが、時が経つにつれ、段々と表情が険しくなっていく。
壁に手をつき、頭を下げる藤田監督。
少しずつ、可能性が下がっていることが目に取れる。
午前11時半の時点で、可能性は「10%ぐらい」
それでも来たるべき決勝・報徳学園戦に向け、選手たちは対策に励む。
ラインアウトやスクラムの首の入れ方、バックスラインまで。入念に打ち合わせを続けた。
FB石原幹士選手は言う。「その時点では、まだ何も伝えられていませんでした。でも先生の姿を見て、なんとなく察していました。」
抗原検査も、PCR検査もした。
全て陰性だった。
それでも大会レギュレーション上、試合日の25日を起点とする濃厚接触者扱いの行動制限がある。
31日にマスクをして試合をすることなんて、とてもではないができない。
大会レギュレーションで定められた7日間の待機期間が解除される日まで、試合日をずらすことは出来ないか。
もしくは令和4年3月16日付けの厚生労働省事務連絡に基づき、各種検査による陰性確認の上、濃厚接触者の待期期間短縮を認め決勝戦を行えるよう検討してもらうことは出来ないか。
策は尽くした。
だが結果は、願っていた形とはならなかった。
最後は午後5時頃、学校長が辞退勧告を受け入れたという。
その後のミーティングで、選手たちには決勝戦が中止になったこと。そして代替案として、報徳学園との練習試合が検討されていることが伝えられた。
うつむき、涙ぐむ生徒もいたという。
大川虎拓郎キャプテンは「起こったことは仕方がない」と前を向いた。
なにより、必死に戦う先生たちの姿を見ていたから、選手たちは受け入れることが出来た。
「藤田先生が、大会運営の方々に決勝戦を開催してくれるようお願いしている姿をずっと見ていました。だけど出来ず、悔しがっている藤田先生たちを見て、今回用意された練習試合がどれだけ多くの人の支えがあって開催出来るのか、知ることが出来ました。(石原幹士選手)」
PCR検査の陰性連絡が入ったのは午後8時頃。
夜11時過ぎに日本ラグビーフットボール協会より決勝戦中止のリリースが通達され、翌・3月31日午前7時39分、埼玉ワイルドナイツの公式Twitterにて報徳学園と東福岡高校とが練習試合を行うことが発表された。