去る2021年12月11日。
中央大学との入替戦を制した東洋大学体育会ラグビー部は、29年ぶりに関東大学ラグビーリーグ戦1部で戦う権利を手にした。
それから丸1年後の、2022年12月11日。
創部史上初めて、大学日本一を決める舞台・全国大学ラグビーフットボール選手権大会に挑む。
「テレビでしか見たことのない舞台で戦うことができる。しかも相手は名門校。みんなの表情を見ていると『ワクワクしてんな』って思います」と話すは、齋藤良明慈縁キャプテン。
なぜ東洋大学は、1部に昇格したその年に大学選手権出場を果たすことができたのか。
その秘密を紐解くため東洋大学体育会ラグビー部のグラウンドを訪れると、7つの理由が見えてきた。
7 REASONS
理由1:めぐり合わせ
試合の度、齋藤キャプテンが口にする言葉がある。
「めぐってんなー。」
このチームに起こるいくつもの不思議な出来事を、キャプテンは『めぐり合わせ』と表現する。
そのうちのいくつかを紹介しよう。
関東大学ラグビーリーグ戦1部、第4戦目となった日本大学戦。試合終了間際のトライで1点差に詰め寄ると、キッカーは最後のコンバージョンゴールを蹴り上げた。
そのボールはゴールポストを外れたが、しかし相手に反則行為があったため、もう一度蹴り直す機会が与えられる。
すると今度はゴール成功。大逆転勝利を手にした。
「信じられないですよね。でもそういうことが起きるチームなんです。本当に誇りに思います。(齋藤キャプテン)」
ゴールが成功し、逆転勝利を手にした瞬間
今季は大勝するでもなく、大敗するでもなく。勝とうが負けようが、7点差以内の接戦が続いた。
ゆえに大学選手権を懸けた戦いは、最終節、長年のライバル・立正大学との一戦までもつれこむ。
きっとこの試合も接戦になるだろう。そう思うやいなや、トライを畳み掛けたのは東洋。一時は27点のリードを奪い、快勝を収めた。
「あそこまでのパフォーマンスを出せたのも、その前に流経大さんに逆転負けを喫していたからこそ。結局、巡り巡って自分たちが一番成長するためのルートを辿ってきているんだな、と感じています。恵まれているチームです。」
齋藤キャプテンは言う。
そもそも2年前に入替戦がなくなっていなかったら、1部へ昇格した年に大学選手権出場はおそらく無理だった、と。
「いま振り返ると、『このための試練だったんだ』と思えることがいくつも起きている。そういう時、東洋はすごい力を発揮できるんです。」
初めての大学選手権で戦う最初の相手は、対抗戦3位の早稲田大学に決まった。
今季のリーグ戦ベストフィフティーンにも選ばれた神田悠作選手(スクラムハーフ、4年生)は、高校卒業後、早稲田大学を目指し受験勉強を重ねていた時期があった。
「全然意識していないんですけど。でもめぐってきますね、そういうのが」と笑う。
「2年間浪人させてもらって、ここで頑張らなかったら何も残らない。4年間やりきる、と決めて入学しました。伝統校と試合ができること、普段戦うことのない対抗戦のチームと試合できることが楽しみです。」
グラウンド外でも、印象的な2つのめぐり合わせがあった。
一つは、農家さんとの出会い。
昨年から学校近くの敷地を借りて芋栽培を始めた。きっかけはトンガやフィジー出身選手たちの食生活に由来する。
「彼らの主食はタロイモなのですが、日本では購入できないし輸入できない。でもどうやら里芋と似通っているらしい、と聞いて、じゃあ里芋を食べればいいじゃないか、と。でも里芋は高いですし、主食にしようと思ったら半端ない量が必要になる。だったら自分たちで作ろうか、と近くの畑をお持ちの方々に話をしに行ったんです。(福永昇三監督)」
すると、快く畑を貸してくれる人が現れた。
畑を管理している農家さんは、これまでラグビーを見たことがなかった。人生初めてのラグビー観戦は、昨年の入替戦。今年の東海大学とのリーグ戦開幕節、江戸川での最終戦と、現地まで応援に来てくれた。
「来るたびに泣いていますよ(笑)」と、監督は笑う。
オフィシャルカメラマンとも、これまた唯一無二の出会いから始まった。
遡ること昨年の菅平合宿。練習試合が行われた翌日、滝行に行った先で写真を撮っている1人の女性と出会った。
聞けば、埼玉県熊谷市から1人でやってきたらしい。
「次の日の練習試合、写真を撮ってくださいとお願いしたら撮りに来てくれたんですよね。そうしたらラグビー面白い、東洋面白い、って言ってくださって。試合の写真を撮りに来てくれるようになったんです。」
これまでは風景写真専門のフォトグラファーだったが、最近は毎試合撮影に訪れ、毎試合涙を流しているという。
一つ一つの出会いを大切にするからこそ、出会いはめぐり合わせへと進化を遂げる。