『愛し愛されるクラブ』を目指す東海が17トライで今季最多得点。東洋は初のAグループで「一つひとつが経験」|第12回関東大学ラグビー春季交流大会

東洋大学

2戦続けての大敗。

対抗戦1位の帝京大学、リーグ戦1位の東海大学とのゲームでスタートを切った東洋大学は、春にAグループで戦う洗礼を受けていた。

「去年まではCグループ。昨年の成績をもとに『Aグループでやらせて頂いている』という段階。これも含めて経験として、チームの更なる飛躍のために、準備の段階から一つひとつが経験です。」

そう話すは、チームを率いる福永昇三監督。

新シーズンのスローガンを『Mother』と定め、東洋大学ラグビー部最大の魅力でもあるチーム作りに勤しむ毎日だ。


Aチームの試合前花道。入学したばかりの1年生たちも笑顔で先輩の肩を叩き、ピッチに送り出す

今年のチームを作る上で、重要なキーワードがある。

愛。

「一番強いのは愛の力。その中でも、母から子への愛情に勝る力はない」と福永監督は考えた。

「お腹の中で10月10日、お母さんが大切に育む愛情。出産の痛みを男子に耐えることは、不可能です。

生まれてすぐに自立しようとする馬や牛、その他生き物に比べて、人間だけは数年間母からの愛情がなければ生きていくことはできません。お母さんたちは1日たりとも、手を抜く日などなかったでしょう。

私たち東洋大学ラグビー部の年間活動日数は、およそ10月10日。奇しくも母の胎内で過ごす日数と同じ時間です。

国籍やルーツ、文化や価値観は様々な我々ですが、与えられた時間は同じ。私たちは1日も手を抜くことなく、お母さんの愛情に勝る愛情をチームへ注ぎたい。

さすれば、奇跡的な新しい1つの生命体が誕生すると信じています。」

1人ひとりが『Mother』として、チームに愛情を注ぐ。その結果、これまで見たこともないチーム像がもたらされるのでは、と考えた。

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そのためにも恵の春、最も注力していることは体作りだ。

「我々が大切にしている部分です。(福永監督)」

ポジション、リーダー含め、誰がどういう役割を担うのか。チーム作りと並行して、10月10日を戦い抜く体力をつけている。

この日は、ポジションでも様々な配置が試された。

タニエラ・ヴェア キャプテンは1戦目のフッカーから、今節は馴染みのあるフランカーへ。開幕戦でスクラムハーフだった林星安選手は10番で起用されるなど、しばらくはポジションを固定せず、様々なトライ&エラーを試す日々が続きそうだ。


9番は2年生の佐々木健人選手が務めた

しかしこの日は、トライ&エラーの悪い方が目立ってしまった東洋。

アタックでのミスほぼ全てを得点に繋げられてしまった。

ヴェア キャプテンは言う。「前半良い流れができていましたが、だんだん東海さんの雰囲気に飲まれて、追いつかない点差になってしまいました。」

ディフェンスからモメンタムを生み出すことができた前半、しかしアタックを仕掛けたかった所でのミスから失点をしてしまったことを悔やんだ。

「プレッシャーも、小さいコミュニケーションミスもあった。結果負けはしましたが、今日足りなかったことを次の試合に活かせると思います。」


タックルに入る13番モリース・マークス選手。この日は1トライ。マークス選手のビッグゲインを起点に生まれたトライもあった

シーズン最初の2試合で、あわせて200点以上を取られれば苦しいチーム状況に陥ってしまうことは想像に難くない。

だがそれでも前を向けるのは、先輩たちの想いを受け継いでいるからだ。

「春にAグループで戦えているのは、これまでの先輩たちのおかげです。本当に感謝しかなくて、もっと、もっともっと良い結果で見せていきたいです。(ヴェア キャプテン)」

今は、ひとつひとつが肥やし。

チームの基礎を積み上げる春は続く。

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東海大学

圧倒した80分。しかし木村季由監督は、表情を緩めることはなかった。

「ブレイクダウンでクオリティの低い場面がありました。そういう所にちゃんと目を向けていかないと、去年最後はそこでやられていますから。同じ轍を踏まないように、春はプレーの精度に目を向けています。」

厳しい相手に対しても、コントロールできるプレーを増やしていくこと。それがまずは一つの目標だと話した。


3トライ8ゴールと一人で31点を稼いだ10番・武藤ゆらぎ選手

今年のチームを率いるは、フルバック・谷口宜顕キャプテン。

「自分自身を一番厳しく律することができるキャプテン。周りがブレる要素がないですね」とは、木村監督評だ。

選手だけで190名を数える部員数。もちろんそれだけの分母がいれば、同じ方向を向けなくなる選手だって出てくるだろう。だがそれでも「周りが『ブレられない』と思うぐらい強いものを持っている」のが谷口キャプテンなのだという。

「本人が一番やりますから。」

木村監督は、絶対的な信頼を示した。


谷口キャプテンは、小学生以来自身2度目の主将を務める

チームは今年初めて、南アフリカから2名の留学生選手を迎えた。

「まだ経験を積ませている段階。ただ、持っているものはすごく良い。1人はFWで伸ばしていきたい」と先を見据える。

だが根底にあるものは文武両道。単位がとれなければ、試合には出場させないのもまた、東海大学だ。


ハットトリックを決めた11番・岡村優太選手は3年生。間違いなくこの試合で一番のゲインメーターを稼いだであろう

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この日、相手のミスを得点機に結びつけた東海。

アタックにフォーカスしている春シーズン。一つずつ場面を切り取りながら練習してきた成果が、17トライという形で表れた試合でもあった。

「僕たちにとってこの一戦はプラスになったな、と思います。(谷口キャプテン)」

相手より早く動き出そう、とテーマにしたことがスコアに繋がった、と振り返った。

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今年、東海大学ラグビー部は初めてのクラブ目標を掲げた。

ラグビーの目標とは別に、自分たちはどういう組織でありたいのか。

考えた末に設定した初めてのクラブ目標は『愛し愛されるクラブ』である。

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トライした選手には全員がハイタッチしに行こう、という決めごとができたのは数年前。

それが今では当たり前の文化として、トライした選手の周りには自然と仲間が集まる。どれだけの独走トライであろうとも、バックスも、FWも、笑顔で手を差し出す光景がこの日は目立った。

東海大学ラグビー部として、愛されるために。まずは190人が自らを愛する日々が始まっている。

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